Nagai Takashi, Yachi Shunji, Inao Keiya (2022) Temporal and regional variability of cumulative ecological risks of pesticides in Japanese river waters for 1990-2010. Journal of Pesticide Science, 47(1), 22-29
https://doi.org/10.1584/jpestics.D21-054
新規論文公開のお知らせです。
日本で使用されている主要な水稲用農薬67種による河川水生生物に対する生態リスクを全国の河川350地点で評価し、さらにその1990年~2010年にわたる推移を定量的に示しました。
20年間で殺虫剤では92.4%、除草剤では53.1%の低減率(350地点の中央値ベース)が見られました。
この成果のポイントは3点あります
1.安全か危険かの二択ではなく生態リスクの大きさを定量的に示したこと
2.個別の農薬だけではなく複数の農薬による複合影響を考慮して、個別の農薬が安全でも全体ではどうなるのか?という疑問に答えたこと
3.農薬の生態リスクの地域差や経年変化を示したこと
20年間での大幅なリスクの低減は
・農薬メーカーによる低リスク農薬の開発
・生産者による農薬使用の低減や水管理の徹底による農薬流出防止対策などの努力
・国による農薬登録制度の見直し(生態リスク評価に基づく規制の導入)
などによると考えられます。
一方で、有機農業の取組面積の割合は2010年度で0.4%(有機JAS認証をとっていないものも含む)にとどまることを考えれば、この20年間における農薬の生態リスクの低減にはほとんど貢献していません。つまり、慣行農業が全体的に環境保全型に底上げされたことによる効果が大きいのです。
ここで研究の背景を少し説明します。農薬の出荷量(有効成分)は1980年代をピークとしてその後は減少傾向にありますが、逆に有効成分の種類は増加傾向にあります。つまり農薬使用の「少量多種類化」が進んでおり、一つ一つの農薬が安全と評価されても複数合わさるとどうなるかという懸念は増しています。
一方で、特定の農薬についてのみに過度に注目が集まり、農薬全体の生態リスクがどうなっているか?ということを考慮することなく、特定の農薬の使用さえやめればよいという風潮も危惧されています。
また、「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減するという目標が示されていますが、本研究の手法を用いることで、実際のリスクがどれくらい低減したかの評価も可能になります。
プレスリリースも行いました:
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154634.html