上田紘司、永井孝志 (2021) 魚類と甲殻類などに対する水草の生態学的有用性に関するシステマティックマップ. 保全生態学研究, 26(1), 33-46
https://doi.org/10.18960/hozen.2010
新規論文公開のお知らせです。
水草帯には多様な魚類や甲殻類等が生息し、水草はそれらの餌資源・産卵場・生息場として機能していますが、具体的にどこでどのような動物種がどのような水草種をどのように利用しているのかというエビデンスについて、これまでに発表されている膨大な文献の中から体系的に整理した報告はありません。
そこで本研究では、魚類と甲殻類等に対する水草の有用性を明らかにするために、システマティックレビューの手法を用いて膨大な文献を体系的に整理しました。日本語文献42件と英語文献470件を整理した結果は以下の通りです:
1)調査地では北米、中南米、欧州、豪州が多くアジア、アフリカが少ない
2)調査水域は湖と河川が多く、海域は少ない
3)調査対象水草はホザキノフサモ等の沈水植物が多く、抽水植物、浮遊植物、浮葉植物がそれに続く
4)調査対象の動物は魚類が半数を占め、中でもブルーギルやヨーロピアンパーチの未成魚を扱った文献が多い
5)水草の利用目的は生息場を扱った文献が80%以上を占め、餌資源や産卵場を扱った文献は少ない
ここでは新たな試みとして、整理した文献中で使われた10種類の研究手法を3段階のエビデンスレベルに分類して整理しました。これは疫学研究のエビデンスピラミッドを参考にしたものです。まだまだ生態学分野ではこの考え方は発展途上で、エビデンスレベル=研究のレベルというわけではありませんが、いずれ必要になる考え方でしょう。