• 研究内容や成果の紹介
    paddy-rice

    永井孝志 (2021) 各種環境保全型農業の取り組みに関する生産者の特性分析と類型化. 農研機構研究報告, 6, 43-52
    https://repository.naro.go.jp/?action=repository_uri&item_id=6761&file_id=22&file_no=1

    新規論文公開のお知らせです。

    地球温暖化対策や生物多様性保全などの環境保全型農業に関する研究成果の普及にあたっては、生産者の類型化によって潜在的ユーザーとなりうる層を絞り込み、その特性に合った普及活動をしていくことが重要になります。本研究では、生産者に対する環境保全型農業の取り組みやそれに関する特性についてのアンケート調査を行い、因子分析やクラスター分析を用いて生産者を5つのクラスターへ類型化しました。

    クラスター毎に環境保全型農業の取り組み割合は大きく異なっており、類型化がユーザー層の絞り込みに効果的であることが示されました。具体的には、日常生活での環境意識が高い農家、もしくは情報技術の活用度が高い大規模農家のクラスターで環境保全型農業の取り組み割合が高い結果となりました。

    また、地球温暖化対策と生物多様性保全の取り組み割合が最も高いクラスターがそれぞれ分かれるなど、環境保全型農業の内容によってターゲットが変わりうることも示唆されました。さらに、環境保全型農業の取り組み割合が高い集団の情報源として、インターネット(クチコミではなく公的機関のサイト)、書籍やセミナー・講演会があり、これらのチャネルを通じた普及活動が有効であるとも示唆されました。

    ちなみにこの成果は研究そのものというよりは、研究成果の普及のためのマーケティング・リサーチになります。2018年度から2年間、管理部門にて研究所の管理・運営業務にあたりましたが、研究者が運営する組織であるにもかかわらず、管理・運営がデータ・ドリブンでないことに大きな違和感を感じました。

    そこで、私はその間に通常業務をこなしながらもなんとかデータサイエンスが組織の管理・運営にも役に立つことを示そうと考え、管理・運営部門における様々なデータを解析しました。研究成果の普及に関してもマーケティングの考え方を導入して、やみくもに宣伝するのではなく、環境保全型農業の取り組み意欲が高い層に売り込むのが効率的だと考えました。いろいろと試行錯誤してみましたが、やはりアンケートでデータを取るのがよさそうとという結論に達して取り組んだのがこの成果になります。

    アンケート調査は初めてだったので、かなりの数の文献や本を読み込んで調査デザインを設計しました。それでもやはり初めてということもあり、査読者の指摘でいろいろ不備があったことを認識しました。経験をもっと積む必要がありますが、webアンケートはかなり気軽にできるのでもっとやってみたいとは思っています。自分の研究を売り込みたい相手は誰なのか?ということを考えるよいきっかけになります。そして本成果のように、うまくやればちゃんと論文にもなります。