• 研究内容や成果の紹介
    plant-test

    上田紘司、永井孝志 (2019) 維管束植物の感受性差を把握するための5種同時発芽生長試験法の開発. 環境毒性学会誌, 21(2), 21-32
    https://doi.org/10.11403/jset.21.21

    昨年度の論文ですが新規論文公開のお知らせです。

    令和2年度から農薬の生態影響評価にこれまでの藻類(ムレミカヅキモ)に加えて、維管束植物としてLemna属のウキクサの試験が必須になりました。ただし、藻類種間でも非常に大きい感受性差があることをこれまでに明らかにしてきましたが、同様に維管束植物の間でも種間の感受性差があるかもしれません。ところが、これまでにOECDのテストガイドラインがあるのは単子葉類のウキクサと双子葉類のホザキノフサモだけとなっています。ウキクサの導入にあたって、急いで感受性の種間差を調べて不確実係数(デフォルトで10を適用)の妥当性を検証する必要がありました。一つ一つ水生植物の飼育法・試験法を確立し、多種類の毒性試験ができるようになるにはかなり時間がかかります。それをやっていたのでは評価法の変更に間に合わないと考えました。限られた時間の中でできることをやる必要があります。

    そこで、この研究では発想を大きく転換し、OECDテストガイドライン208の陸域生態影響試験としての植物発芽生長試験を水耕栽培系に改編し、各種植物の種子を使って効率的に多種類の毒性試験を一度に実施する手法を開発することにしました。水生植物そのものを使うのではなく、系統的に類似の栽培作物の種を購入して使用すれば、継代飼育法を開発する必要もなく、系統の維持に大きな手間もかかりません。さらに6穴のマイクロプレートを試験容器として使用することで効率性を大幅に向上させ、一度に5種類の毒性試験を実施することができるようになりました。使用する植物種は、かなり多数の種を予備的にテストしてネギ、クレソン、レタス、カーネーション、バジルの5種類に決めました。もちろんこれは一つ一つ水生植物の飼育法・試験法を確立し、多種類の毒性試験ができるようになるまでの「つなぎ」であると考えています。ただ、この簡易的手法を用いてある程度維管束植物の間における種間の感受性差を把握しておけば、実際の水生植物での毒性試験のデザインにかなり役立つと思われます。

    藻類やウキクサに対して毒性が弱い除草剤2,4-Dを用いて開発した試験法を適用したところ、藻類やウキクサよりも大幅に強い毒性が見られました。さらにさまざまな作用機作の除草剤への適用を試みましたが、その結果は次の論文にする予定です。

    写真はレタスを用いたとある予備試験の結果ですが、上段の3つはコントロール区、下段は曝露区で左、中、右の順に濃度を上げています。徐々に初期生長が阻害されているのがわかります。