農業はさまざまなリスクにさらされており、加えて農業自体が環境に与えるリスクなどもあります。これまでは農薬が水生生物に与えるリスクの評価を中心に行ってきましたが、現在は農業生産も含めた総合的なリスクマネジメントに向けたツールの開発を行っています。
目指すべきリスクマネジメントツールとして、現在得られるデータを最大限活用し、
(1)リスクの見える化
(2)リスク低減対策の効果の見える化
の両方を行うツールを開発し、農業の意思決定を支援することを目標にしています。特にリスク低減対策の効果の見える化については「解決志向リスク評価」と呼ばれるものです。
農業経営におけるリスクは大きく分けて以下の8つに分類されます:
(1)販売価格の変動によって収益が変動する価格リスク
(2)天候の影響などによって作物の収量が変動する収量リスク
(3)労働者の病気・ケガ等によって生産に影響を与える人的リスク
(4)資金繰りの悪化によって経営が立ち行かなくなる財務リスク
(5)農薬の規制の変更等によって生産に影響を与える制度上のリスク
(6)新たに導入した農業技術がうまくいかないなどの技術の陳腐化リスク
(7)農機具の故障などによって生産に影響を与える財物リスク
(8)契約不履行・交通事故・農薬残留基準の超過等による損害賠償リスク
(前川寛 (2007) 農家のためのリスクマネジメント, 家の光協会)
それぞれのリスクのマネジメントに有用なツールを今後開発していきます。
農業生産は長期予測の難しい気候条件に強く依存していることから,工業生産に比べて変動性が非常に大きくなっています。
収量変動に関するリスクマネジメントの手法として,以下の5種類が挙げられます:
(1)高温・低温等に対処するリスク低減栽培技術の導入
(2)高温・低温等に耐性のある品種の導入
(3)複数作物の栽培によるリスクの分散
(4)気候条件の異なる土地での栽培によるリスクの分散
(5)保険・共済によるリスクの移転
(天野哲郎 (2000) 農業経営のリスクマネジメント―畑作・露地野菜作経営を対象として―, 農林統計協会)
作物や圃場立地の分散によってリスクを低減するためには、収量の変動をなるべく低く抑える作物や地域の組み合わせを知る必要があります。ところが、どの地域のどの作物でどの程度の収量変動リスクがあるのか、という大規模な解析が現状ではそもそも存在しません。よって、農業経営者が自分の地域・自分の栽培している作物の収量変動リスクを知りたい、という情報ニーズに答えることができない状態になっています。
そこで、農林水産省による作物統計の長期データを用いて地域ごと・作物ごとの収量変動リスクを定量的に解析し、それぞれのリスクの大きさや作物分散・地域分散によるリスク低減効果を見える化するツールの開発を行っています。
論文: